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月別アーカイブ: 2015年1月
別の森へ
先日歩いた森とは違う、別の森に入った。ここも14年前入った森で、特別に変わった様子はなかったが、強いてあげると、立ち木や倒木に以前より苔が多く付いたような気がする。屋久島全体で共通して言える森の特徴だが、一つの例として「地表の下草が無くなって、苔の生え方が多くなっている」ことが上げられる(場所、気象条件も含めて)。それは、地表に育っていた植物、あるいは発芽してこれから育とうとしている植物を、2万頭近くいるといわれているヤク鹿が、好みの植物だけを食べ尽くしてしまった。その結果、下草が無くなり今残っているのは、嫌いなものや、毒性があるものだけになってしまったようだ。苔も食べているところをたまに見かけるが、どうも好みではないのか、そんなに多くは食べていなかった。そのため苔は生き延びて、繁殖を続けることができたのだろうと思う。学術調査によると屋久島で生息している苔は650種類が確認されているという。
その先に待っていたものとは
低い尾根を越える前、ザァーっと水が流れる音が聞こえた。確か、小さい川があって、川のすぐ横には江戸時代に伐られた屋久杉(樹齢二千年ぐらい)の切り株が立っていて、当時67(ろくなな)という中判カメラ(フィルムはロール状でこのカメラで撮ると、ワンカットが名刺ぐらいの画像になる)で、何回も撮った記憶が蘇る。胸の高まりを抑えながら尾根を越え川に着くと、目を疑う光景がそこにあった。なんと、すでに伐られていた屋久杉の切り株が傾いて川の中にあったのだ。ありゃま~ぁ!。この状況から判断すると、川の横に切り株の状態で立っていて、大雨の時川が増水したために根元の土が削られ、流されたのだろう。あまり大きくなかったのであの切り株とは違っていた。川の中に入って写真を撮り上流を見ると、50mぐらい先に大きな木が川を半分塞ぐように横たわっていた。すぐに川の横の茂みを上りそこに着くと、大きなため息と失望感で言葉を無くした。大きさと場所からして、あの切り株だとすぐにわかった。切り株が倒れて川を塞いで、流されてきた大小の石と他の木が詰まって、防波堤のようになっていた。立っていた時は長かったであろう根は、幹の近くで切れて、雨で洗われたのか土は無くなっている。茶褐色と白くなった部分を見ていると、最初撮った時から歳月がだいぶ経ったのだと実感した。それと幹の中心部は、立っている時におそらく空洞(屋久杉の特徴)になっていたと思われ、倒れて今度は横に空いた穴に砂と小枝が半分近くまで溜まっていた。長靴を履いていたのですぐに岸から川に入り、15分ほど根と幹を撮影した。時計を見ると時間的にお昼を過ぎていたので、川岸に座りおにぎりをほおばる。食べながらその根を見て思った。撮っててよかった!。【すなわち、自然界は何が起きるかわからない。森で撮影した屋久杉が一年後には倒れていたり、岩が落ちていたり、トップページに掲載している屋久杉の残骸に水が流れているシーンは、川の中だったため、撮影した二年後に大雨の増水で流され、今はもう無い。人の命もまた然り、事態が起きた時《撮っててよかった!》と思うことが何年かに一回はあり、いかに記録が大事か……ということを痛感する。】おにぎりを食べ終わり、この森である程度撮ったのでどうしようか迷っていた時、空が怪しくなって今にも雨が降り出しそうになってきた。とりあえずこの場を離れて来た方向に歩き始めた。歩き始めて10分もしない内に北西の風が吹き始め、いっきに気温が下がり雨交じりのあられが頭を叩きだした。首に下げていた二台のカメラをリュックに入れ、急いで歩いていると、ちょっとした斜面で落ち葉が濡れていたため、足が滑り“すってんころりん”。尻餅をついてしまった。あぁ~、歳をとったなぁ~と思う瞬間だった。すぐに起き上がり、周りを見渡したが人が居るはずも無く、ヤク鹿が見ていたらおそらく笑われたな!と、鹿が笑うのを空想しながらまた急いで登山口まで駆け下りた。=この頁で終わり
木村伊兵衛のパリ -写真集ー
日本を代表する写真家木村伊兵衛は1954年(昭和29年)、カラーフィルムでパリを撮影している。その時、パリの下町を案内したのがロベール・ドアノーだった。そのカラー作品はあまり人目に触れることはなかったが、幻のカラー作品170点をまとめた大型写真集「木村伊兵衛のパリ」が刊行された。しかし、もう絶版になっている。ほしい写真集だったのに残念でならなかった。が、昨年の12月、その大型写真集の中からセレクションされた78点で、ポケット版の「木村伊兵衛のパリ」が朝日新聞出版から刊行された。早速取り寄せて手に取った時、感激で涙が出そうになった。「木村伊兵衛」・「ロベール・ドアノー」二人とも敬愛する写真家です。パリ……将来必ず撮影に行きます。
その先へ
森の中は尾根筋だけ時々風が通るぐらいで、谷を歩いていると寒さは感じない。昼前になって灰色の空から陽射しが森の中に入るようになってきたので、陽が当たってる部分と、そうでない部分は、太陽の動きを見ながら雲に隠れるのを待って撮り分ける。(快晴で雲が無い日は、コントラストが強いため森の中は基本的に撮らない)森の中を先へ先へ進むと、見覚えのある光景が目に飛び込んできた。根っこごと倒れた杉。おそらく台風で倒れたと思われるこの杉は14年前、あまり苔は付いておらず、枝もかなり残っていたように思う。それが今、びっしり苔に覆われていて枝も少なくなっていた=写真。幹本体は脂分が多いためそのまま残っている。写真を撮り終え、次は何が出てくるかわくわくしながら前に進んだ。つづく
もう一度歩く
昨夜降ったまとまった雨も未明には止んだので、今日は14年前に撮影で入った森を歩いてみた。夜が明けてもまだ曇り空は続いていたため、森の中はちょっと薄暗く風が吹くと葉についていた雫が多少落ちてきた。苔はたっぷりと水が蓄えられているのか、深緑になって水滴がきらきらしている。14年前歩いたこの森の道は、江戸時代に使われていたと思われる山道で、石積みがうっすらとわかるぐらいだった。それが今ではその道を鹿がいつも歩いて踏み固めたように、はっきりとわかるようになっていた。(鹿は歩きやすい所をいつも歩く習性があるようだ)あの時は、森の中に江戸時代に伐られた屋久杉の残骸がたくさん転がっていて、苔に覆われていたのを覚えている。台風などで倒木があり、森はかなり荒れてしまっているだろうと思いながら入ってみると、意外とそれは無く、14年の歳月がたってもあまり変わっていない事に驚いた。ただ、屋久杉(土埋木)は木肌が見えないぐらい苔に覆われ、その上に14年前にはなかった別の木の新しい命が育っていた。つづく 写真=22日、苔に覆われた屋久杉土埋木